猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

変容

彼はかつて

プログラムを組み

画面でささやかなゲームを動かし

何かもう

小さな小さな幸せを摘みとるのが

楽しすぎて

どんどんどんどんのめり込んだ

 

あるプログラムが

世界中の人らをあっと言わせ

小さな小さな幸せは

どんどんどんどん摘みとられ

何かもう

彼の庭には草一本なくなったような

さびしさを覚えた

 

前よりちょっと広い家で

前より処理能力の優れた相棒と

いくらでも好きなだけ

プログラムに没頭することができるのに

 

小さな小さな幸せを

誰もが摘みとるものだから

それはいつの間にか変容した

 

“足りない”

“もっとほかのを”

“あいつのほうがいいじゃないか”

“お前のほうがいいじゃないか”

“よこせ”

“渡すものか”

 

幸せは

不安や闇と隣り合わせであることを

忘れてはいけないのだ

なのに……

 

彼は

ちょっとだけ広くなった家で

ちょっとだけ小さくなった空を

見つめるしかなかった

 

 

f:id:Sala-Y:20190720120803j:plain