猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2015-01-01から1年間の記事一覧

移ろい

遠のく鴉の声 オレンジ色の空 夏が微睡んでいる 流れる星の粒 藍色に染まる雲 秋がほどかれていく

夢のあした

作りものの空のした 夕陽を背負って歩く街 作りものの空の青 きみへの手紙を置いてきた 作りものの空みあげ なくした歌を探す頃 作りものの空剥がれ 記憶の雨が降り注ぐ

0になりたい

0になりたい 0になれない 0にならない 0で語れない 0に縋っても 0が消えない 0を消しても 無は生まれない 無が生まれても 0にならない

晩夏のふたり

砂だらけの手足のまま 君の肩越しに見た 空と海 砂だらけの体のまま 震えながら君にしがみついた 君の腕に爪をたてて しっぽが大きくふくらんだ かすかに眉を寄せ 君は静かに “だいじょうぶ” そう繰り返しては 僕の耳の後ろをやさしくなでた

うそ詠い

うそごと吐いて 飾ってみせた うそごと詠って 笑ってみせた 小狡いの いなくなれ 小狡いあたしはどっかいけ 小狡いの とんでいけ 小狡いあたしを忘れてしまえ 涙といっしょに溶けてしまえ

祈り

泣きも笑いもせず 青く広がっていた カラカラになった心に 青く広がっていた あの日終わったことが 始まらないように 二度と始まらないように 青い空に祈る 命に祈る

すれ違いざま

すれ違いざまの昨日は いつだって泣き顔で 通り過がりを装えば 決まって僕を睨めつけた 螺旋の系図は いつだって澄まし顔で 知らぬふりを装えば 決まって僕を傷つけた すれ違いざまの今日は いつだって戸惑い顔で わかったふりを装えば 決まって “人生は短い…

視線の雨

街に視線の雨が降り注ぐ 傘はもう無用とばかりに 四方八方(よもやも)から 水しぶきが降りかかる 無遠慮な好奇心 無意味な虚栄心 無自覚な雨ふらしの群れ 街に視線の雨が降り注ぐ がらがらと音をたて 傘もやぶれよとばかりに そこかしこへ 水しぶきが踊り狂…

夢浮かぶ

羽衣寄せて 花ごとたもと 灯した果ては毛氈に やがて一夜の夢浮かぶ

月の街

月は探す 海の見えぬ街 風と消え 雨に染まる人を 月は呼ぶ 森の見えぬ街 空へ溶け 光に染まる人を

青い雪

青い青い雪が ようやくやんで 生温い心をそっとなでた 赤い赤い空に ようやく飽きて 冷えた心がそっと触れた 広い広い海は ようやく目覚め 熱い頬にそっとキスした

憧れ

雨の中で 陽の注ぐ場所に 焦がれ 陽のしたで 雨晒しになりたいと 願う

立秋

蝉時雨にあらがえば 風がさわわと鳴いた 昼は次第に淡さを増して 次の季節を迎え入れる 熱帯夜にあらがえば コオロギがコロロと鳴いた 夜は日ごとに濃くなって 月をその手に抱きよせる

FU・O・N

物情騒然ありあまる 腐敗堕落を流し見て 複雑怪奇の夢あれば 舞文曲筆なお止まず

あたしを満たす全てのものが

あたしを満たす全てのものが 愛の側に属するのなら どんなによいだろう あたしを潤す全てのものが 暗闇に流れおちれば 泣かなくてすむだろうか あたしを連れ去る全てのものが 光で見えなくなったなら 許されるのだろうか

熱帯夜

夜を喰い 光を盗んだ 夢を貪り 影を宿した

空想版「花の名」より〜百日紅

花も葉も 楽しそうに笑っている 夏を愛し 百の昼を染める 想い人の化身

はじめましてを知るとき

はじめましてが始まった はじめましてはキュンとして はじめましては切なくて はじめましてにはしゃぎ過ぎ はじめましてに追いつかない はじめましてが終わるとき はじめましての意味を知る

夜が食べ尽くす

夜は狡猾だから 曖昧な気持ちに 気づかないふりをする 夜は聡明だから ためらいがちな視線を 隠してしまう 夜は哀しいから 生まれたての感情を 食べ尽くす かけらも残さず食べ尽くす

Moth

思い上がりの鱗粉が はらはら舞った 脱ぎ捨てたかったじぶんは いつも苦くて 見せかけの 甘い香りがした さみしがりの鱗粉が はらはら舞った つなぎとめた時間は もっとあからさまで 見たことのない 空が広がった きらきらの鱗粉が はらはら舞って 羽音はや…

おまじない

すべてうそっこ みんなほんと みんなほんとで すべてうそっこ

猫の独白

賑やかな夢から抜ければ 雨の街が今日も佇む 昨日のあなたを想う 透明な猫になる 顔のない猫に戻る

ひとかけら

かみさまが 散らかした夢を ほんのひとかけら 心に飾っておきましょう

もつれ

空の指先が白い波を混ぜて 僕はかみさまにみつかった 記憶を閉じたままで あやとりするように かき回されつづけた 空の指先がくるりくるり 僕をからめとっていった 沈黙を抱いたままで 糸みたいに ほどかれ続けた 空の指先がとても静かに 光を放っていた 僕…

夜を残して

夜を残して 去った 夜だけが 味方でいたのに、 手放した 口もきかずに 夜だけが 抱き寄せてくれたのに、 手放した 顔も見ずに 夜を残して 歩き始めた 夜だけが 信じられたのに、

希望

泣きはらした大地に 足を踏み入れる日まで 朝を抱いていよう 光を見つめていよう 喜びの涙が大地を潤すまで 笑顔があふれるまで

欲動

鎖を引きちぎった金魚の吐息 鎖をのみこんださかなの尾ひれ 惑う背中は赤くて柔い すがる背中は熱くて甘い

contrail

飛行機雲を指でたどる 未来を微塵も疑わなかった あなたの耳を指でなぞる 明日を微塵も疑わなかった 歪んだ月の泳ぐ空 褪せた恋色そよぐ風

月に炎

紅をさすよに粧う月は やがて我が身を焦がさんと あらがう指先愛おしむ 紅をひくよに荒ぶる月は やがて命を燃やさんと 流るる光を愛おしむ 月に炎のあふれし夜は いつか宴が果てるまで 移ろう嘆きを愛おしむ

利器

手に入れたとき 何もかもが とてつもなく強くなって とてつもなく弱くなった