よかった、今夜は機嫌がいい。
学校の話題を切り出すとき、流行りの楽しいことを話すとき。
兄と私は、食卓の下でこっそり膝をぶつけあう。
いつの間にか身につけた兄弟だけの秘密…祖父が知れば小賢しいと喚くだろうが。
料理は兄も私も好きなたちで、まあまあ食卓は潤っていた。
だが。何を食卓にのせても、孫の我々がニコニコしているだけで
作り直せ!
その上に怒鳴り声が重なる。
食事中の楽しい会話は(マナーを守りつつ、という注釈はついて回る)、祖父がもっとも忌み嫌っているものだった。
子ども嫌い。
一人が大好き。
そんな祖父の元に、秋の1週間だけ預けられる。
どんな事情があったのか、あるいは契約でも結んでいたのか、大人になった今でもよくはわからなかった。
その祖父が珍しく機嫌がいい。
お祖父様、体育祭にはいらっしゃいますか
兄が凛とした声で言う。
お祖父様、学校は久しぶりでしょう
校舎を案内しますよ
僕が声変わりしたての声でたたみかける。
ふん、一人前にそんなことを言うようになったか
行ってやらんこともない
プログラムか案内があれば、冷蔵庫の扉に貼っておきなさい
その秋、初めて祖父は保護者として体育祭に来てくれた。
次の年から、両親は祖父の家に僕らを預けることをパッタリとやめてしまった。
大人になった今でも、祖父に何が起こったのか、どんな契約がそこに結ばれていたのかはわからない。
事情を知る人たちが、あちらに引っ越してしまったせいである。