猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

詩人屋さんと栗と毛糸玉たち

小さな小さなワークショップから帰ってくると

猫の両手にちょうどいいぐらいの麻の袋が

ドアノブにかけられていました

 

 詩人屋さんへ

 三つ目じいちゃんと栗拾いに行ってきました

 宇宙猫さんにも手伝ってもらったよ

 編み物は相変わらずだけど

 雲を数えたり空の行方を追うことも

 相変わらず

 そんな毎日です

 また近いうちに伺いますね

 

コロンコロンしたつやつやの栗たちと

短い手紙が添えられていて

詩人屋さんは本当の猫のように

ゆっくりとまばたきしました

 

銀杏色の帽子とバッグをかたづけて

栗の下ごしらえを済ませたら

毛糸屋さんが持ちやすいように包んでくれた

毛糸玉たちと改めてご対面です

 

ラジオの雲予報をちょっと気にしながら

季節が行きつ戻りつするさまを

心の片隅に刻みつけると

試し編みを始めたのでした

 

ふくよかな言葉たちが

あぶくのように

浮かんでは消え

消えては浮かぶ

 

やがてひとつに集まってくるのを

すくい上げては濾し

濾しては手放し

 

編み針と鉛筆を時々持ち替えながら

詩人屋さんは鍵しっぽを動かしています

 

栗が美味しく茹るのと

小さな編み物が出来上がるのと

小さな童話が生まれるのと

どれが一番早いでしょう

 

今日もトーザ・カロット岬には

ほんの少し悲しみをたたえた強い風が吹いています