猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

毛糸屋さんと詩人屋さん#1〜トーザ・カロットの人々

ふくよかな言葉を探すのに

ちょっとくたびれてきて

詩人屋さんは四つ足になって

みょーん!と伸びをしました

 

そのまま頭からしっぽまで

ぷるぷるぷる!とふると

とても昔のそのまた昔の

まだ人たちに忌み嫌われていた頃の光景が

ふわわ

心に浮かんできました

 

いまもどこかにそんな星はあるでしょう

ですから

星を渡っていた頃の武勇伝のひとつやふたつは

詩人屋さんだって体の奥に眠らせているのです

 

雲予報士のあの子が聞いたら

心配して叱ってくれるかもしれませんが

今日は仕事が忙しいらしい

 

「ティペットでも編んでみましょうかね」

 

詩人屋さんはそう呟くと立ち上がり

銀杏色の帽子とバッグを身につけ

いそいそと出かけていくのでした

 

猫そっくりの毛糸屋さんが営むお店では

小さな小さなワークショップの真っ最中

 

と言っても

おしゃべりしてもいいし

黙っていてもいいし

奥のキッチンでお茶を入れても

ケーキを焼いても

お昼寝しても

もちろん編み物をしても

 

だあれもなんにも気にしません

 

猫も来るし三つ目も来るし

なんでもあり!

そんな気楽な空間は詩人屋さんも大好きです

 

お店の窓から中を伺うと

エプロン姿の店主がこちらを向いたので

詩人屋さんは銀杏色の帽子をとって

軽く挨拶しました

すると

 

わ〜詩人屋さんだ!

秋の色してるねえ

はやくはやく

お昼寝しにきたの?

お話聞かせて

かぎしっぽ見せて

 

わあわあと

可愛らしい声が聞こえてきたのです

人の子どもらと

猫の子どもらと

みんなで遊んでいたらしい

猫そっくりの店主が

「詩人屋さんの邪魔をしてはいけないよ」

と軽くたしなめています

 

詩人屋さんはふくよかな言葉探しのことを

しばらくの間

空に預けておくことにしました

ティペットのことで心も体もいっぱいです

 

今日もトーザ・カロットの岬には

夢とやさしさを連れてくる力強い風が

びゅうびゅうと吹いているのでした

 

 

🐈🐾🐾ティペット〜首の前で重ねるように留める、つけ襟のような短いマフラー