猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

詩人屋さんの日常-4

トーザ・カロット岬と呼ばれる場所に

一軒の毛糸屋さんがあります

魔法の見えない人らにも大人気だったのですが

(多くはショコラオレンジの夕闇に

さらわれて行ったものだから)

今は閑古鳥が鳴いているのでした

 

長いしっぽの毛糸屋さんは

鍵しっぽを持つ詩人屋さんの

古い友だちです

 

生まれる前に

 

人のように生きる命か

猫として終わる命か

どちらかを選びなさい

 

という声がして

面白そうだからという理由で

人のように生きる命を選んだらしい

 

すっくと立ち

人の言葉を話し

多少は魔法をたしなむ

そのかわり

歳を重ねることは忘れてしまう

 

星の命が尽きる頃

ようやくおしまいが見えるかもしれませんねえ

 

毛糸屋さんは

しっぽをパタパタしながら

そうこぼしていましたっけ

 

それは詩人屋さんも同じでしたが

「猫らしくいることも忘れませんように」

こっそり毎日祈っているせいでしょうか

すっくと立っていても

気を抜くとつい

「ゴロゴロゴロ」と喉を鳴らしたり

ドアを引っ掻きたくなったりするのでした

 

今夜もスープをかき混ぜながら

詩人屋さんは

ご機嫌に喉を鳴らしています

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香月さんによるイラストACからのイラスト