トーザ・カロットの岬に
びゅうびゅうと強い風が吹いています
街の人らも猫らも森の住民らも
生まれた時からこんな感じなので
どうということもないのですが
お店を開けるかどうかは
悩みどころ
なぜなら
毛糸玉たちが風に興奮して
ビュ〜と飛んでいってしまうから
お客さまがせっかく出会った
美しい“kanade”が
隣の街で発見されて大騒ぎになったことも
1度や2度ではなく
猫そっくりの毛糸屋の店主は
ううむと悩んでいたのでした
そう言えば2日ほど前のこと
雲予報士のご夫婦が
「店主さん、明日はいつもより風が強くなりますよ」
と教えてくれたのを思い出しました
そして
溺れかけの小さな青い星では
1番目の月の
1の日のお祝だから
お休みするお店も多いのだと
フリュの店長も話していましたっけ
猫そっくりの毛糸屋の店主にとって
1番目の月の1の日は
また1から始まるだけの
そんなに特別ではない日です
だけど毛糸玉たちが
てんでに出かけてしまっては
たいへんなので
お休みをいただくことにしました
今夜は
鍵しっぽの詩人屋さんが
新作を抱えてやってきます
キッチンで
たっぷりの氷と
たっぷりのお水と
またたび酒を用意しました
さあ
あまり酔いが回らないうちに
新作の感想をちゃんと伝えなければ
いつもより
ほんの少し部屋の温度を暖かくして
猫そっくりの店主は
大好きな友達の到着を待ちわびているのでした
トーザ・カロットの岬には
今日も幸せな音霊を運んでくる強い風が
びゅうびゅうと吹いているのです