猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

怖かった。

ヘリコプターが怖かった。

まだ学校にもあがらない頃だったろうか。とても低く飛んでいるのか、モーター音が近く迫り、母の手を引っ張って「逃げようよ」と言った。

 

落ちかかる火の粉、そんな幻影をかすかに覚えている。

轟音が通り過ぎた。何事も起こらなかった。

 

「帰りましょ」

 

我が子の恐怖に気づいたか気づかぬか、母はそうっと握り返してくれた。

ヘリコプターの機影はどんどん豆粒のように縮まり、音がまだその場を満たしている。

 

ヘリコプターが怖かった。

轟音が通り過ぎてもなお、怖かった。