へろへろと帰宅して、いつものようにキーケースを取り出す。
深く考えもせず、定位置に鍵を突っ込みドアノブに手をかけようとして、「おお」と思わず声が出る。
「冬の始まり」がドアノブに貼りついていた。
去年より、だいぶ遅めのお出ましだ。ただ、明日はまた夏日の予報なので、昼までには風にさらわれてしまうだろう。
そういえば、マンションの掲示板に「冬の気配は資源ごみの日に出しましょう」とあったっけ。
いつからこんな窮屈な時代になったのだろう。
冬の入り口を探したり隠したり散らかしたり(!)しているのは、詩人(だけ)じゃないと思うのだけれど。
しかし、このままにしておくわけにもいかない。
指でチョン、と突っついてやる。そうすると簡単に剥がれるので、ハンカチにくるむ。
そのまま玄関の前に置いてもいいが、「詩人さんが冬を連れてきた!寒いのは詩人さんのせいだ!」などとあらぬ噂を立てられても厄介だ。
とりあえず家の中へ滑り込み、玄関ドアをほんのちょっと開けておき、ハンカチごと「冬の始まり」を両手で包み込んだ。
ジーン、と指が痺れたが、それだけだった。
す、と何かがドアから流れ出していく。
早朝に木枯らしくらいは吹くかもしれないが、そこまで面倒は見れない。
冬の入り口が見つけてもらいたがっていたとしても、詩人にできることは時間稼ぎくらいのもの。
さて、カフェインレスのコーヒーでも淹れるとするか。