猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

冬の入り口-2

へろへろと帰宅して、いつものようにキーケースを取り出す。

深く考えもせず、定位置に鍵を突っ込みドアノブに手をかけようとして、「おお」と思わず声が出る。

「冬の始まり」がドアノブに貼りついていた。

 

去年より、だいぶ遅めのお出ましだ。ただ、明日はまた夏日の予報なので、昼までには風にさらわれてしまうだろう。

そういえば、マンションの掲示板に「冬の気配は資源ごみの日に出しましょう」とあったっけ。

 

いつからこんな窮屈な時代になったのだろう。

冬の入り口を探したり隠したり散らかしたり(!)しているのは、詩人(だけ)じゃないと思うのだけれど。

しかし、このままにしておくわけにもいかない。

指でチョン、と突っついてやる。そうすると簡単に剥がれるので、ハンカチにくるむ。

そのまま玄関の前に置いてもいいが、「詩人さんが冬を連れてきた!寒いのは詩人さんのせいだ!」などとあらぬ噂を立てられても厄介だ。

 

とりあえず家の中へ滑り込み、玄関ドアをほんのちょっと開けておき、ハンカチごと「冬の始まり」を両手で包み込んだ。

ジーン、と指が痺れたが、それだけだった。

 

す、と何かがドアから流れ出していく。

早朝に木枯らしくらいは吹くかもしれないが、そこまで面倒は見れない。

冬の入り口が見つけてもらいたがっていたとしても、詩人にできることは時間稼ぎくらいのもの。

 

さて、カフェインレスのコーヒーでも淹れるとするか。