猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

ほんの少し

久しぶりに雨のない土曜、お昼時。

大根が安いよ、とAIがピックアップしてくれたチラシ。

ありがたい。スーパーへ向かう。

 

早朝にしか行かないようにしているものだから、これまた久しぶりの混雑の中に、体を滑り込ませた。

 

柴犬がね、好きなんですよ

 

急に年配の男性の声がした。

顔見知りなのか、彼とあまり変わらない年齢であろう女性に話しかけている。

話しかけられたほうは、買い物の続きをしたいのだが、と顔に書いてあるが、同時に久しぶりに会えたのだから相手をしなくちゃね、人目もあるしという正直なところも見え隠れ。

 

大根を選んでいると、

 

ああ、久しぶりに会話っちゅうもんができた

ありがとう、ありがとう

 

男性は、大事そうに「おつとめ品」の山の中からリンゴをひとつ。

レジへと向かった。

ようやく解放されて、ほんの少しの安堵と後めたさが女性の頬に宿る。

またいつか。小さくつぶやいた。

 

ほんの少しでいいんだよ、ほんの。

幸せも、愛も。

 

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