猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

ベレー帽と猫そっくりの店主-5

トーザ・カロットの岬に

びゅうびゅうと強い風が吹いています

 

猫そっくりの毛糸屋の店主と

“kanade”に浸している毛糸玉たちが

再度向き合う日がやってきました

 

自分のためだけの毛糸玉を仕上げるのは

とても久しぶりです

どんな色になるのでしょう

どんな音霊と再会できるのでしょう

 

この道数十年(もっとか?)の店主も

この時ばかりは

ほんのり緊張を覚えるのでした

 

森の奥に暮らす三つ目の友人から教わった

“人払い”を念のため店の周りに施して

いそいそと作業部屋へ

 

ふ ふわ〜

ざ ざぁ〜

さわさわ〜

 

この前よりずっと

やさしいやさしい音霊が

毛糸玉からたちのぼっていて

猫そっくりの店主は

思わず瞳を細めました

 

旅のさなか

夢で見た

紫の海原に溺れたままの

小さなまるいもののことを

思い出したのです

 

どこかで元気にしているのなら…

 

毛糸玉をていねいになでながら

店主は祈るような気持ちになりました

 

店の周りに施した“人払い”

ゆっくりほどけていきます

猫そっくりの毛糸屋の店主は

自分だけの毛糸玉たちに

ふわふわした布をかぶせて

お店のほうへと急ぐのでした

 

今日もトーザ・カロットの岬には

新しい誓いと懐かしさを運ぶ力強い風が吹いているのです

 

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