トーザ・カロットの岬に
びゅうびゅうと強い風が吹いています
猫そっくりの毛糸屋の店主と
“kanade”に浸している毛糸玉たちが
再度向き合う日がやってきました
自分のためだけの毛糸玉を仕上げるのは
とても久しぶりです
どんな色になるのでしょう
どんな音霊と再会できるのでしょう
この道数十年(もっとか?)の店主も
この時ばかりは
ほんのり緊張を覚えるのでした
森の奥に暮らす三つ目の友人から教わった
“人払い”を念のため店の周りに施して
いそいそと作業部屋へ
ふ ふわ〜
ざ ざぁ〜
さわさわ〜
この前よりずっと
やさしいやさしい音霊が
毛糸玉からたちのぼっていて
猫そっくりの店主は
思わず瞳を細めました
旅のさなか
夢で見た
紫の海原に溺れたままの
小さなまるいもののことを
思い出したのです
どこかで元気にしているのなら…
毛糸玉をていねいになでながら
店主は祈るような気持ちになりました
店の周りに施した“人払い”が
ゆっくりほどけていきます
猫そっくりの毛糸屋の店主は
自分だけの毛糸玉たちに
ふわふわした布をかぶせて
お店のほうへと急ぐのでした
今日もトーザ・カロットの岬には
新しい誓いと懐かしさを運ぶ力強い風が吹いているのです