トーザ・カロットの岬に
季節はずれのあたたかな風が吹き込んできました
猫そっくりの毛糸屋の店主は
何かが落ちてくるのではないかと
思わず空を見上げました
もっとも
雲予報士たちの予報によれば
ほんの一時的で
また
いつもの風模様に戻るでしょう
とのこと
1の月に
こんな風の訪れはとても珍しいのです
つるりつるり注意報の翌日
春のような日になるなんて
誰が想像したでしょう
さて
とびっきりの毛糸玉がみっつ
出来上がりました
自分用にはひと玉もあれば充分なので
あとのふたつは店番を頼まれてくれた
友人たちに
プレゼントすることにしたのでした
もつれさせることが得意な
雲予報士の奥さんには
眺めているだけで幸せな気持ちになれる
深いネイビーの毛糸玉を
毛糸より言霊を編むことがふだんごとの
鍵しっぽの詩人屋さんには
春風を集めたような
レモンイエローの毛糸玉を
そして
ベレー帽を編むために店主が選んだのは
夢の中にあらわれた紫の海を思わせる
美しい色の毛糸玉
どの毛糸玉にも
風が木の葉を揺らす音や
かすかな波の“kanade”が
ちょうどよく染み込んでいるのでした