猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

ベレー帽と猫そっくりの店主-6

トーザ・カロットの岬に

季節はずれのあたたかな風が吹き込んできました

猫そっくりの毛糸屋の店主は

何かが落ちてくるのではないかと

思わず空を見上げました

 

もっとも

雲予報士たちの予報によれば

 

ほんの一時的で

また

いつもの風模様に戻るでしょう

 

とのこと

 

1の月に

こんな風の訪れはとても珍しいのです

つるりつるり注意報の翌日

春のような日になるなんて

誰が想像したでしょう

 

さて

とびっきりの毛糸玉がみっつ

出来上がりました

自分用にはひと玉もあれば充分なので

あとのふたつは店番を頼まれてくれた

友人たちに

プレゼントすることにしたのでした

 

もつれさせることが得意な

雲予報士の奥さんには

眺めているだけで幸せな気持ちになれる

深いネイビーの毛糸玉を

 

毛糸より言霊を編むことがふだんごとの

鍵しっぽの詩人屋さんには

春風を集めたような

レモンイエローの毛糸玉を

 

そして

ベレー帽を編むために店主が選んだのは

夢の中にあらわれた紫の海を思わせる

美しい色の毛糸玉

 

どの毛糸玉にも

風が木の葉を揺らす音や

かすかな波の“kanade”が

ちょうどよく染み込んでいるのでした

 

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