猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

ベレー帽と猫そっくりの店主-7

季節はずれの陽気な風は

あっという間に飛び去って

トーザ・カロット岬は

いつものように

雪まじりのひんやりした日々になりました

 

このところ

猫そっくりの毛糸屋の店主は

ベレー棒の編み図をこさえながら

しっぽをパタパタ動かしています

 

途中で模様を入れてみようか

ほんの少しグラデーションをつけてみようか

 

店主は楽しくて幸せで

真面目な顔を装っても

ついつい

しっぽが動いてしまうのでした

 

バレンタインデーのコーナーで

チョコレート色の毛糸を選んでいた

人らが帰っていき

店内は

また静かになりました

 

店主は

かぎ針を持ち出して

ベレー帽を一段だけ

編んでみることにしたのです

 

めったに出さない爪を

しゃき!と出すと

慎重に毛糸をひっかけ

かぎ針も使って

(魔法こそ使いませんでしたが)

ささっと一段目を編みました

 

さわさわと

緑に満ちた風が手元から立ち上がり

店主は大事そうに

できたばかりの輪っかを撫でたのでした

 

トーザ・カロットの岬には

雪まじりのひんやりした風に

かすかな春の気配と誰かの悲しみを抱きしめる

時間と空間が広がっているのです

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sorairobirdさんによるイラストACからのイラスト