猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

マーマレードといつか降る空-2

雲予報士になるずっと前

ごろんごろんした

大ぶりのみかんが出回る季節になると

果物屋さんでアルバイトをしてた

その頃

みかんの蕾色の毛糸を買うのが楽しみだったんだ

 

編み物は好きなのだけど

早く完成形が見たくて

大急ぎで編みすすめてしまう

それがいけないのか

よく毛糸をもつれさせて

結局は

岬の毛糸屋さんに助けを求めるの

 

猫そっくりの店主から

“結果を急いでは今をも見失います”

と叱られていたものよ

 

そうこうしているうちに

雲を数えることのできる人たちが

少ないけれどもこの星にも暮らしていることを

教えてもらった

 

マーマレードとピールが大人気の果物屋さんは

そんな“雲よみ”の資質を持ちながらも

できれば静かに暮らしたいと

今の仕事を選んだそう

 

わたしとも君とも違う理由で

それでも“雲よみ”を静かに続ける人がいる

切ないけれど心強い

ありがたいよね

 

雲予報の前にお弁当を届けるから

そうなの

データをもう少し細かく見ておきたくて

うん

じゃああとでね

 

雲予報士の奥さんは電話を切って

ふうぅ

大きく息を吐きました

 

君の選曲がそれはそれは楽しみだなんて

言い出せないんだよねえ…

何かに負けたような気がするのよね

 

キッチンでマーマレード仕立ての肉を

もう一度注意深く煮詰めました

水分を飛ばして少し焦げ目をつけて

しばらく冷ましてから

二人分の夕食を手際よくBOXに詰めると

不安定な色の空を見上げます

 

詩人屋さんのティペットは

編み上がっただろうか

そんなことを思いながら

雲予報士の奥さんは

自分も職場へ向かう準備をするのでした