猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

まだ天気予報があった頃のこと

とっても昔のそのまた昔の物語

まだ天気予報があった頃のこと

人々は空を見上げるかわりに

てのひらの小さな画面にあらわれる

絵空事に近い噂を頑なに信じていて

その通りにならなかったり

あるいは

そんなに大したことではないと知るたびに

ずいぶんとイライラをつのらせていたそうです

 

ある者は

噂の中心人物を論(あげつら)い

ある者は

もっともっと尾ひれを上乗せして

ひそかに鬱憤を晴らしていたと言われています

 

お天気が変わるように

人の心は移ろいやすく

やがて

苦心惨憺して一粒の真実を見つけるよりも

フェイクのほうがずっと楽しいじゃないか

そんな世の中になっていきました

 

しばらく経つと

天気予報はいつにまにか廃れ

フェイクな音信もかすかに届きはしますが

雲を数えて空が落ちる日を予想する

雲予報がラジオから不定期に流れるだけになりました

 

空がはがれる絶望など

誰も知りたくなかったのですが

 

わたしたちはそんな星で今日も生きているのです