とっても昔のそのまた昔の物語
まだ天気予報があった頃のこと
人々は空を見上げるかわりに
てのひらの小さな画面にあらわれる
絵空事に近い噂を頑なに信じていて
その通りにならなかったり
あるいは
そんなに大したことではないと知るたびに
ずいぶんとイライラをつのらせていたそうです
ある者は
噂の中心人物を論(あげつら)い
ある者は
もっともっと尾ひれを上乗せして
ひそかに鬱憤を晴らしていたと言われています
お天気が変わるように
人の心は移ろいやすく
やがて
苦心惨憺して一粒の真実を見つけるよりも
フェイクのほうがずっと楽しいじゃないか
そんな世の中になっていきました
しばらく経つと
天気予報はいつにまにか廃れ
フェイクな音信もかすかに届きはしますが
雲を数えて空が落ちる日を予想する
雲予報がラジオから不定期に流れるだけになりました
空がはがれる絶望など
誰も知りたくなかったのですが
わたしたちはそんな星で今日も生きているのです