猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

詩人屋さんと編み物

栗を入れたまあるいパンを

お友だちに届けて

ありがとうを交換しあって

また

ぱたぱたと帰ってきました

 

出かける前に詩人屋さんは

ささやかな物語をひとつ書き上げて

寝かせておいたのです

編み上げた言葉たちが

体からも心からも抜け落ちていれば

ちゃんと“生まれた”ことになる

その感覚を詩人屋さんはとても大事にしています

 

ノートパソコンを開いてファイルを呼び出すと

最後の一行を消去しました

手直しはそれだけ

そして

待っている人らに届くように

送信したのでした

 

夕食までは

まだ時間があります

詩人屋さんは緋色の毛糸をとりだすと

かぎしっぽをゆらり

楽しげに編み物を始めたのです

 

サラサラと砂が崩れる音と

パチパチと何かがはじける音が

ラジオから流れる雲予報と混ざり合っていきます

 

いつの間にか雨あがり

風が強くなりました

 

空ごと降ることがもっと増えたなら…

 

それでも

ひと目ひと目大事に大事に

今を編むしかないのです