びゅうびゅうと
耳たぶが持っていかれそうな風が
今日もトーザ・カロットの岬に
吹いています
学校はちょっとたいくつ
先生の授業は興味深いけど
父親より口うるさくて
心のなかでときどき
あかんべーしちゃいます
そういえば
漆黒の闇色の
毛糸が入荷しました
毛糸屋さんの前に
そんなお知らせが貼ってありました
吸いこまれそうな
闇色の帽子を編んだら
どんなにすてきなことでしょう
放課後のドーナツ屋さんも
魅力的すぎるけど
友達には明日も会える
ごめんね、と手を振って
トーザ・カロット岬を目指します
びゅうびゅうと
耳たぶが持っていかれそうな風が
岬に吹いています
毛糸屋さんは大いそがし
桜の涙色の毛糸と
春一番の雨色の毛糸が
飛ぶように売れているのですって
いらっしゃい
試し編みをしたいなら
5玉もあればいいかなぁ
お客さんが途切れたので
毛糸屋さんは急いで奥の部屋から
宇宙みたいなつやつやした玉を
だいじそうに紙袋ごと
抱えてきてくれました
あったかい闇色の
つやつやした毛糸玉
編んでる途中で
心が痛くなったら
またお店にいらっしゃい
にこにこと毛糸屋さんは
言いました
びゅうびゅうと
耳たぶが持っていかれそうな風が
今日もトーザ・カロットの岬に
吹いています
泣きたいときも叫びたいときも
びゅうびゅうと
トーザ・カロットの岬に
風が吹いています