猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-2

びゅうびゅうと

耳たぶが持っていかれそうな風が

今日もトーザ・カロットの岬に

吹いています

 

学校はちょっとたいくつ

先生の授業は興味深いけど

父親より口うるさくて

心のなかでときどき

あかんべーしちゃいます

 

そういえば

 

漆黒の闇色の

毛糸が入荷しました

 

毛糸屋さんの前に

そんなお知らせが貼ってありました

 

吸いこまれそうな

闇色の帽子を編んだら

どんなにすてきなことでしょう

 

放課後のドーナツ屋さんも

魅力的すぎるけど

友達には明日も会える

 

ごめんね、と手を振って

トーザ・カロット岬を目指します

 

びゅうびゅうと

耳たぶが持っていかれそうな風が

岬に吹いています

 

毛糸屋さんは大いそがし

 

桜の涙色の毛糸と

春一番の雨色の毛糸が

飛ぶように売れているのですって

 

いらっしゃい

試し編みをしたいなら

5玉もあればいいかなぁ

 

お客さんが途切れたので

毛糸屋さんは急いで奥の部屋から

宇宙みたいなつやつやした玉を

だいじそうに紙袋ごと

抱えてきてくれました

 

あったかい闇色の

つやつやした毛糸玉

 

編んでる途中で

心が痛くなったら

またお店にいらっしゃい

 

にこにこと毛糸屋さんは

言いました

 

びゅうびゅうと

耳たぶが持っていかれそうな風が

今日もトーザ・カロットの岬に

吹いています

 

泣きたいときも叫びたいときも

びゅうびゅうと

トーザ・カロットの岬に

風が吹いています