猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

風磨きのうさぎ-1

ピカピカ

ピカピカ

 

雨雲をせっせとこしらえていた

風磨きのうさぎは

思わず地上を見下ろしました

 

ピカピカ

ピカピカ

 

光の持ち主は

黄色い帽子をかぶった男の子です

ちいさな手にこれまた小さな鏡を握っています

 

人に向けてはダメよ

そう

人だけではなく

歩いているもの

座っているもの

泳いでいるもの

それから飛んでいるものにも

絶対にダメ

 

厳しく厳しく母親から言われて

光を壁に向けたり地面に向けたりして

遊んでいたのがちょっと飽きてきて

うぅぅぅ〜ん

男の子は鏡を握ったまま背伸びをしたのです

 

あっいけない

飛んでいるものがびっくりしちゃう

男の子はあわてて鏡を裏返そうとして

つるり!

落っことしそうになりました

 

風磨きのうさぎは

雨雲を少しほどいて

ぽいっ!

男の子に投げてやりました

 

びゅうっ!

男の子の手の中に風がはいりこんで

それからすぐに

静かになりました

 

ちょっぴりの雨粒と

うさぎの毛がくっついた小さな鏡を

男の子は不思議そうに見つめていました

それから小さな鏡を大事そうに握り直して

そのままお家へ戻っていきました

 

男の子の姿が見えなくなると

ピカピカも見えなくなりました

 

風磨きのうさぎは

ほどいた雨雲をていねいに繕うと

ふかふかの手でポンポンと軽くととのえて

ふわりと空へ放ちます

 

今夜はほんのりと草の香りのする雨が

人らをやさしい眠りへと誘うことでしょう

 

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