「魔法がちょびっと使えるんだから、ポケットなんかいらんでしょ」
口の悪い友人が、そんなことを言う。
いやいや、コントロールできぬのだよと返しながらポケットからのど飴を取り出し、手渡す。
去年のじゃないから安心しな、と付け加えて。
ポケットにビスケットを忍ばせていたのは、遠い昔。
叩いて粉々になったのを忘れて洗濯機に入れたもんだから、叩いても増えないのよっ、と母親にこっぴどく叱られたっけ。
笑い話のようないつかの出来事である。
むろん、もうポケットを叩いたりはしないが、寒い季節に小さな菓子を忍ばせる習慣は変わらない。
猫街では雨が珍しい。
そのせいか、冬になると喉と言わず内臓と言わずかさついてくる錯覚に陥る。それで、のど飴を数個、ポケットに忍ばせて散歩を楽しむのだ。
半端な魔法びとの血筋がどこからくるのかは、相変わらず思い出せなかった。
それでもいい、と思えるようになったのは「猫街暮らしの寒さを運んでくる詩人さん」と噂され始めた頃だ。
ドアの鍵穴にほんの少し貼り付いていた冬の気配を、まだ早いよ、と引っぺがしたところを近所の人に見られてしまった(汗)。
魔法びとの中でも、冬のカケラを扱う者は珍しいらしい。
まあ、噂されても暮らしにくくなるような空気感はないので、そのまま同じ場所に住み続けているのだが。
「いちじく味とは洒落てるな」
堂々巡りを友人がさりげなく断ち切ってくれる。
いい奴だな、お前。いちご味だけども。