猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜風どまり茶〜

なんで音が鳴るんだよ!

 

風どまりの晩秋の朝

岬の毛糸屋さんに

飛びこんできた人がおりました

 

お茶を入れていた猫そっくりの店主…の弟は

心の中だけで目を白黒させましたが

1年…いや数ヶ月に1度ぐらいは

トゲトゲの言霊を抱えてくる

お客さまがいらっしゃるのだ、と

店主である兄からうっすら聞いておりましたので

 

いらっしゃいませ

 

落ち着いた声で

その人に話しかけました

 

手前どもの毛糸には

人の心を癒す

“花奏(カナデ)”を染み込ませておりますゆえ

波長が合えば体にも心にも届くのでございます

 

むむう〜

わけのわからんことを

あんたそれでも毛糸屋かよ

 

正確には違うのですが、と音霊にはせず

お腹の中でそっとつぶやくと

猫そっくりの店主…の弟は

静かに答えました

 

毛糸屋かどうかは

手前どもが決めることではない

たまたま毛糸をとり扱っているだけのこと

それでいつの頃からか

猫の毛糸屋さん

岬の毛糸屋さんなどと

みなさまが名づけてくださったのです

ありがたいことだ

 

そして

血走った瞳のその人に

 

“空落ち酒”は

闇の夢をもたらすことがあります

気をつけたほうがいい

 

そう言って

少し濃いめの風どまり茶を

酔いざましになります、と

すすめたのでした

 

飲んでやらんこともないが

おお意外といけるぞ

 

もそもそブツブツの声からは

もうトゲトゲは感じません

お茶を飲み終えると

少しまあるい背中のその人は

 

…悪かったな、猫さんよ

 

もそもそ呟きながら

店を出ていきました

ぽとりと

雫が落ちるような声でした

 

お客さまが帰っていくのを

お見送りして

猫そっくりの店主…の弟は

自分のためのお茶を用意するために

店の奥へと姿を消しました

 

トーザ・カロット岬は

風どまりの晩秋の朝

猫にも人にもやさしい季節が

始まっているのでした