猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

心を診る猫の医者-17a

有頂天になったら

どうしよう

いい気になってやがる

そう思われたら

どうしよう

 

僕はなんてことない

平凡で目立たないのが

気に入っているんだ

ひっそり生きていたいんだ

なのに

なんだか注目浴びちまうんだ

ああ

孤独でいたい

どうすればいいでしょう

 

心を診る猫の医者のもとに

「ジェンダーレスなのですが…悩みはそのことではなくて」

そんな電話がありました

 

こちらにいらっしゃいますか

 

そう尋ねるとその人は

 

いいえ

このまま電話でお話できれば

じゅうぶんです

 

静かに答えます

 

心を診る猫の医者は

同じく静かにゆっくりと

 

ありがとう

では少しお話しましょう

応じました

 

有頂天になるのが怖いのです…

 

ため息まじりの声で

その人は話し始めました

 

わ〜!っと盛り上がったあとの

反動が特に

そして

間違ってるんじゃないだろうか

目立ちすぎなんじゃないだろうか

そんなことばかり

モヤモヤモヤモヤ

湧いてくる

明るく笑ったあと

さめざめと泣いている

そんな自分をなんとかしたくて

 

心を診る猫の医者は

やさしく相槌をうっておりましたが

その人が受話器の向こうで

 

はぁぁぁ…

 

それはそれは

しみじみとしたため息を

つくのを聞いて

 

ああ…

久しぶりに

いいため息が聞けました

 

思わず呟きました

 

電話の向こう側の人は

ぷっと吹き出して

 

いいため息だなんて

初めて聞きました

あははは

 

楽しそうな笑い声でした

どこにも

何にも

引っかからない

心からの楽しい音霊が

電話のこちら側にも溢れてくるようです

 

あれ?

楽しく笑ったあとでも

悲しくならないです

不思議だなぁ

 

それは何よりです

ひとつ提案なのですが

 

心を診る猫の医者は

のんびりした口調で

こんなふうに言いました

 

ほろ苦いコーヒーか

ほの甘い紅茶が飲みたくなったら

いつでもふらりと訪ねてくるといい

明日でも数年後でも

 

そして

「お大事に」のかわりに

にゃあご

と鳴いたのでした

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