猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん「息子ども」

いつもであれば

メールかLINEで済むところ

声が聴きたいと

嬉しいことを言う息子ども

何をねだるでもなければ

とりたてて近況報告でもなかろうに

リモートワークを早々に切り上げ

スカイプを開始する

 

もう〜親父さあ

LINEしてからにしてよ

 

頼むよ、とぼやきつつ

まんざらでもないらしい

 

兄貴は残業だってさ

いい“kanade”が手に入ったらしい

ごめんな、時間とってくれたのに

 

反抗期はあったのか?と思い返すが

息子どもの弟のほうは

そんなに裏も表もなかったようだ

兄も静かな性格だった

 

あのさ

親父に謝らなくちゃ

あともう少し

離れて暮らさないといけないからさ

 

しかたないな

禍の真っ最中だ

誰のせいでもない

 

まあね

星間を渡るのも厳しいし

兄貴も毛糸屋としてすっかり落ち着いたみたいだ

 

あの岬か

トーザなんとか、って言う

 

それそれ

人のお客もまあまあ訪ねてくるから

驚きだよ

ただ

だいぶショコラオレンジの夕闇に

持ってかれたから

人は少なくなっちまったな

 

息子どもの弟のほうは

イカ耳になった

 

お前も店に出るのかね

 

たまに兄貴と入れ替わったり

二人でレジに立ったり

「今日は弟さん?」と

常連さんに話しかけられたりね

 

オレンジ色の霧はいくらか薄くなったのか

 

それを知らせようと思ってね

兄貴も

人のお客が少しでも戻るといいのだが

なんて言ってる

 

また会えるだろう

元気でいなさい

 

ああ

親父もな

そっちの星は禍もひどそうだ

猫には影響ないとは言うが

気をつけてな

 

また連絡するよと

息子どもの弟のほうはスカイプを切った

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