森はずれに住む三つ目のもとに
詩人屋さんは遊びに行くところです
あの日に借りた頑丈そうな傘を
大事そうに抱えながら
鍵しっぽにいつもより気持ちをこめて
歩いていくのでした
空が降っても星が降っても
どうということはないのさ
だが
あんたら猫にはそうもいかないさねえ
持っておいき
びゅうびゅうと風が吹き
ごうごうと緋色の夕立に見舞われた夕方
森はずれに住む友人は
それはそれは頑丈そうな傘を
ほれ
猫の手に持ちやすいように
握らせてくれたのです
詩人屋さんは
緋色の夕立の中を岬まで歩きました
頑丈そうな傘は思いのほか軽く
まるで家の中の
一番好きな場所にいるようで
ゴロロ ゴロロ
ごきげんに喉を鳴らしながら
岬まで帰ってきたのでした
あとで毛糸屋さんの店主に
そのことを話したら
みるみるしっぽがふくらんで
“あなたの武勇伝がひとつ増えた”と
呆れられてしまいましたが
なるほど
次の朝外に出ると
あっちにもこっちにも
落ち空のなごり
森はずれに住む友人から借りた
頑丈そうな傘がなければ
どうなっていたことか
詩人屋さんは本当の猫みたいに
高いところにうずくまりたくなりました
落ち空と緋色の夕立
雪だるまの満月
そして
風やすみの岬
小さな小さな星が悲鳴をあげている
何よりのしるしでした
森はずれに住む三つ目のもとに
詩人屋さんは遊びに行くところです
あの日に借りた頑丈そうな傘を
大事そうに抱えながら
鍵しっぽにいつもより気持ちをこめて
歩いていくのでした