猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

店主のひとりごと〜トーザ・カロットの人々

店主ではなかった頃

わたしは毛糸の仕入れをしていました

いずれ剥がれ落ちるであろう空のもと

宇宙猫たちに手ほどきをうけながら

少しずつ色のことを学んでいったのです

 

雪色に染める時に使う花のこと

闇色の糸を扱う時の心構え

空のかけらの保存方法

 

そうそう

“kanade”の落ち着かせかた

そんな“授業”もありましたっけ

 

鳥がいなくなり始めてからは

星を渡る仲間も増えたのですが

わたしは自分の店を

どうしてもどうしても持ちたかった

星を渡るすべを持たない命たちのためにも

空が降り続ける絶望と向き合う日々が

いくらかでも安らいだものになればと

心に決めていたのです

 

そうして

岬の風に逆らわず

岬の風に感謝しつつ

わたしはささやかな店を構えることになり

おかげさまでこうやって

日々を送っているというわけなのですよ

 

物好きだと言われても

旅猫のくせにと謗られても

わたしがそうしたいだけなので

気にはなりません

 

ほんとうの“おしまい”は

いつどんな形で訪れるのか

猫にだってわかりはしない

誰かに訊かれるたびに

そう答えることにしているのです

 

トーザ・カロットの岬に強い風が吹いている限りは

まだまだ空も頑張ってくれるはずですから