猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

光景

嘘を紡ぐためじゃ

なかった

初めのうちは

 

名前のない場所で

自分さえ知らない名前をなのり

見たこともない言の葉を

見つけようとしただけだった

 

真実を紡ぐためじゃ

なかった

今だって

 

きみに届けたいのは

そんなことじゃないのだし

ほんとうっていうのは

ドロドロした心のうちにしか

ないのだし

形になった時点で

まるで違ったものになるんだもの

 

それでも書きたかったんだ

 

人のように話す猫はちょっと笑うと

また

小さなスケッチブックを広げました

初めての言葉に出会うために

 

空がまだ

誰の上にも存在していた頃のお話です