どんっ!
てっきり、下手な魔法が自分から漏れ出たのかと思った。
昨夜書き物をしていたところ、キッチンのほうで大きめの…寝た子が起きるくらいの物音が響いた。いや、響いたと感じた。
なぜなら、耳で聞いたのではなかったから。
これはひょっとして、もしかして。
猫そっくりの店主にすすめられた珈琲でも淹れようと、書き物の手を休める。
キッチンでは、球根を突き破るかのように成長を続けていた花が、開こうともがいているところだった。人の気配に驚いたのか、そのまま固まってしまう。
珈琲を淹れるだけだよ、明るくしてごめん
通じたかどうか分からぬが、もそもそと花が揺れた。
急いで咲かなくても、急いで咲き誇っても、それは花自身が選べばいい。
人らの心も、案外そんなものかもしれないのだから。