執筆に専念しているうちに、すっかり冬景色となった。
もうしばらくすると、出歩くのに少々難儀するようになる。その前に、もう少し珈琲豆を買い足しておくか。
3日ほど前、猫店主から「詩人さん、新しい豆が入荷しましたよ」とお誘いがあったばかり。あまり寒くならないうちに、と添えられていた。
雪が止んだタイミングで、足元に気をつけながら出かける。手袋も帽子もマフラーもコートも欠かせない。
冬の欠片ぐらいは何とか手懐けることができても、血の何分の1かは人であるから寒いものは寒いのだ。
旅から戻ったばかりの店主は、いつものように「詩人さん、いらっしゃい」と出迎えてくれた。
ちょうどお客が途切れたタイミングだったので、味見をさせてもらう。
少し苦味の強いものを、と注文すると、おまけにチョコレートに似たお菓子を何かけか包んでくれた。
クリスマスが近いから、と店主は菓子のお代を受けとらなかった。
「詩人さんが魔法を大事に片付けているから、そのお礼でもあるのですよ」
やめておくれ、と苦笑いしつつも、確かに本気で頑張れば猫街のひとつやふたつ、氷の中に閉じ込めるくらいはできなくはないことを、ふと思い出す。
自分の記憶か、誰かから受けとった思い出かはわからなかった。
珈琲豆の知らせをありがとう、店主さん。
またきます。
「お気をつけて、いい冬を詩人さん」
ありがとう、店主さんもね。